勇気ある撤退 その2

MRIという機械は、まずその機械を設置してから、周りの壁や屋根を取り付けていくという工法を取るらしい。重量や放射線を使うとった特性から他の医療機器と違って「搬入」ということができない代物であることが理由だと聞いた。


ある病院で、MRI室を建築している際、既にMRI装置を設置して、壁も作ってしまい、7割方工事が進んだ時点で、設置したMRI装置の機種が間違っていることが判明したとしよう。さてどうするか。

作ってしまった壁を取り壊し、正しい機種の装置に交換してから、再度工事をやり直すというオプションが一つ。もしくは取りあえずこのまま工事を進め、いったん予定通りに完成させてから、あらためて改装し直すというオプションが一つ。
どちらのオプションにも一長一短ある。


最初のオプションには、納期が遅れるというリスクの他、これまで工事に携わって来た関係者の士気が下がるという問題がある。
もう一つのオプションには、取りあえず当初の納期を守れるというメリットがある代わりに、屋根まで含めて改装しなければならないため、今作り直すよりももっとコストがかかる可能性がある。


さてどちらを取るべきか。


決して正解があるわけではなく、ケースバイケースで対応せざるを得ないというのが結論だ。というのはケース毎に、様々な要因や条件が絡み合っているからだ。だからこそ、どの条件を優先させるのかを整理していけば、自ずと回答が導き出される。


イラクに侵攻したブッシュ政権が「勝利宣言」をした後、何年にも渡ってずるずると戦争を続けてきた。フセイン政権を倒しただけで混乱したイラクを収拾することができておらず、かといってこのまま撤退して「負け」を認めることもできずに、ズルズル・ダラダラの状態が続いて来た。おかげでアメリカ政府は前例のない大赤字となり、ついでにサブプライムバブル経済もはじけ、大恐慌以来の経済危機に直面しようとしている。ベトナム戦争でも「勇気ある撤退」に失敗したアメリカは、同じ問題を繰り返している。

工事の設計ミスとイラク侵略とを同じ土俵で例として使うのは不適切かもしれないが、事の大小はともかくとして、「勇気ある撤退」を迫られる場面は我々の日常生活の中のそこかしこにある。


負けが込む前に辞めるパチンコ、結婚式を目前に控えた婚約破棄、借金を国民の血税で肩代わりして会社を存続させるかそれとも思い切って市場原理に委ね倒産も致し方ないと覚悟するか、、、、。勇気ある撤退が迫られる場面は多々あるのだ。


「勇気ある撤退」について書こうと思ったプロジェクトは、一応、撤退しないということで結論が出たが、今撤退しない場合のリスク(とコスト)を試算している最中である。