『放送員話術』と会議通訳

先日の通訳業務でご一緒させて頂いた方は私よりも少し先輩かと思われる年齢にも拘わらず、とても丁寧にご挨拶してくださった。彼女はある長期のプロジェクトにおいて、たまたま専属通訳の方が2週間ほどお休みを取られた時の補充の方だった。

「ミッキーさん、お目にかかれてうれしいわ。お噂はかねがね皆さんから伺っていました。」

(う〜ん、マズイな。お噂はかねがねと言われて、ろくなことがあったためしがない。)

ということで、ある打合せに同席した。担当通訳は彼女。
間髪いれずにさらさらっと訳出している。
私も横で感心しながら待機し、自分の番を待っていた。

ところが、、、。

5分もしないうちに彼女の様子がおかしくなった。
えっ? まさか。

打合せの内容はさほど込み入ったものではない。社内打合せだからさほど緊張するような性質のものでもない。それなのに。

彼女が、あの朝鮮中央放送の女性アナウンサーになってしまったのだ。
相手の顔を覗き込み、鼻を食いちぎってしまうのではないかと思うほどの至近距離で、しかも鬼が乗り移ったか、化身したかと思うほどの形相で、訳し始めたのだ。

同時通訳に慣れている会議通訳は、時として、訳に抑揚がなくなり単調になることがある。
逐次通訳ならもう少しメリハリをつけた通訳でもいいのだけれど、と思うこともる。
それなのに彼女の場合は、「そんなに興奮しないで」、「落ち着いて」、「もっと淡々とやってくれればいいから」、と隣で見ていてはらはらするやら唖然となるやら。

実は、彼女のことは社内ではかなりの噂になっていたらしい。
打合せが終わってから出席者に「どうだった?すごいだろ?」と言われた。
何だ、皆知っていたのですね。ウェブカメラで録画しておき、ユーチューブにアップロードしたらよかったよねと、笑えない冗談が飛ぶほどの「パフォーマンス」だったのです。


いままでもいろいろな会議通訳の方にお会いしたことはあるけれど、彼女の「凄さ」は横綱級でした。
(ちなみに、彼女の英語は私の耳には典型的な韓国訛りの英語に聞こえました。)